こんにちは。サメハダです。
みなさんFIREへの計画は順調でしょうか。
FIREムーブメントに欠かせない概念である4%ルール。根拠となっているトリニティスタディという研究論文であることは有名です。
前回は1998年に発表された元祖となる論文について解説しました。さらに今回は2011年に発表された同じ研究チームによる追跡調査について日本語で解説したいと思います。

今回も効率的にナナメ読みしちゃうぞ!
前回の振り返りと今回の論文
前回の振り返り
前回は1998年に発表されたトリニティ大学の3人の教授たちによる論文について解説しました。

今回の論文の概要
今回は同じ研究者らによって行われた追跡調査に関する論文について解説します。

“Portfolio Success Rates:Where to Draw the Line”
(By Philip L. Cooley,Carl M. Hubbard,Daniel T, Walz)
April 2011『ポートフォリオ成功率:引出率の研究』
2011年4月発表。著者の3名は1998年当時と全く同じ顔ぶれです。
要約にあたっては上記リンク先の原文の一部を引用させていただいております。素晴らしい研究成果に感謝いたします。
論文はFPA(The Financial Planning Association)という団体のこちらのサイトで公開されています。

8つのパラグラフで構成されており、今回も構成に沿って重要なポイントを解説していきます。なお、原文の表示は必要最小限に留めています。
- Executive Summary
- Drawing the Line
- Past Studies
- Data and Methodology
- The 7 Percent Plan
- Adaptive Withdrawal Plans
- Conclusion
- References
解説の進め方について
前回は極力原文の抜粋まで行いましたが、今回はよりわかりやすくするために原文の抜粋は割愛して要約だけ記述しています。本文が気になる場合は原文をご参照ください。

本文が始まるよ~
トリニティスタディ追加研究本論
パラグラフ1:要旨
- 様々な引出期間における毎月の引き出しを差し引いたポートフォリオ成功率を報告する。
- データは、1926年1月から2009年12月までの大企業普通株式と高格付社債のトータルリターン、消費者物価指数の値とインフレ率を使用。
- ポートフォリオの成功率が75%であれば、大企業普通株式が50%以上のポートフォリオについては、初期値の7%の固定額を引き出すことができると結論づけた。
- 毎年インフレ調整を行う場合は、4%から5%の範囲で低く設定する必要がある。
- 予期せぬ金融市場の変化に応じて、基本テーブルを用いて引き出し率や金額を変更する。
- 成功率の定義は1998年の論文と同様で、ポートフォリオの資産が退職者の引出期間をどの程度カバーしたかの割合。
- 退職者が資金を引き出したとき、ポートフォリオが退職者よりも長生きした場合は成功とみなされる。反対に退職者がポートフォリオよりも長生きした場合は失敗とみなされる。
- 引出率の最適解(ゴルディロックスソリューション)を探る。
So what is the Goldilocks solution between a high portfolio success rate (low withdrawal rate) and a low portfolio success rate (high withdrawal rate)?
では、高いポートフォリオ成功率(低い引き出し率)と低いポートフォリオ成功率(高い引き出し率)の間のゴルディロックスソリューションとは何でしょうか?
Portfolio Success Rates: Where to Draw the Line
By Philip L. Cooley, Ph.D.; Carl M. Hubbard, Ph.D.; and Daniel T. Walz, Ph.D. April 2011
ゴルディロックスとは、「ちょうどよい」という意味で用いられます。
元ネタはイギリス童話『3匹のクマ』の主人の名前で、、3匹のクマさんの留守宅に迷い込み、お父さんクマのスープをtoo hotと言い、お母さんクマのスープをtoo coldと言い、子グマのスープをjust rightと言って子グマのスープを全部平らげたキャラクターらしいです。(参考)

パラグラフ2:境界線を引く
- 「4%ルール」は初期コストが高い(引出額に対してポートフォリオの投資額が高い)との批判のある。(Scott, Sharpe, and Watson (2009)の論文)※→つまり無駄になる余剰資金が多いとの批判があったとしています。
- できるだけ多い金額をポートフォリオから引き出したいと考える退職者は多い。株式市場から得られる平均リターンである10%もの引出率を希望するものもいるが、それはもちろんボラティリティ面でリスクが高い。
- 10%は平均リターンかもしれないが、平均回りの分散は巨大である。ランダムなポートフォリオから10%の引出を行うと、成功率は50%程度。これはコインをはじく戦略のようなもの。ほとんどの退職者にとって成功率は50%超必要である。
パラグラフ3:過去の研究
- 過去の研究では一定の引出額に基づいて成功率が計算された。引出期間中において、引出額、引出率、資産配分を変更することはプランの変更に繋がる可能性があるからだ。
- 他の文献では、ポートフォリオの価値が変化した場合に引出額や引出率を変更する仕組みを推奨し、ポートフォリオの持続性向上について検討している。
- 両社の違いは視点にある。
- 前者は、退職後のプランに焦点を当てる。継続的なポートフォリオの管理手法は提案していない。
- 後者は、引出の最適化を目的とした継続的なポートフォリオの管理計画を提案している。
パラグラフ4:データと方法論
- オーバーラップ解析を使用。→※時系列データが84年分と長期であるため一般的なモンテカルロ・シミュレーションやブートストラップよりも優れているとしています。モデルの内容なので詳細は割愛します。
- 中央値の計算には、失敗したポートフォリオやマイナス値のポートフォリオは含まれていない。
- 株式リターンは、Standard & Poor’s 500 Indexの月次トータルリターン。
- 社債のリターンは、Salomon Brothers Long-Term High-Grade Corporate Bond IndexおよびStandard & Poor’s monthly High-grade Corporate composite yield dataから算出した月次トータルリターン
- 1926年1月から2009年12月までの15年、20年、25年、30年の重複した期間について、毎月のポートフォリオリターン、月末値、引き出し後の月末値を計算
- 暗黙のうちに、毎月のポートフォリオを株式と債券の望ましい配分にリバランスすることを前提
- 調整に用いる年間インフレ率は、モーニングスター(2010)および米国労働統計局(2010)が発表した1926年から2009年までの消費者物価指数(CPI-U)から算出
パラグラフ5:7%プラン

パラグラフ5はグラフがたくさん出てくるよ!
筆者は成功率と最終価格について述べています。
原文では成功率と最終価格を次のような表で示しています。やや情報が過剰なので、見やすくするため8%以下に絞り、株式債券割合別のグラフで表示します。

表1について:成功率(インフレ調整なし)
- 1926年~2009年までの期間、配当期間は15年~30年の5年刻み、資産配分は株式100%~社債100%までの25%刻みで設定。
- 表1によると、少なくとも50%の株式で構成された退職後のポートフォリオは、高い確率で7%までの引出率を維持できる。
- 引出率7%において失敗したポートフォリオの半分は、1930年代の世界大恐慌の直前または最中に開始されたという不運のために失敗した。
- 表1によると、債券の構成比率が50%を超えると、ポートフォリオの成功率は急速に低下する。また、引出率が7%を超えると、ポートフォリオの成功率は急速に低下し、一般的に受け入れられないレベルになることがわかる。
数値は成功率を表します。100は100%の意味です。


表2について:成功率(インフレ調整あり)
- 表2は、インフレ調整した場合のポートフォリオ成功率。
- 毎年の引出額をインフレ調整したい場合、ポートフォリオの枯渇を避けるために、最初の引出率を低く設定する必要がある。
- 例えば、期間30年/株式75%債券25%/引出率7%のポートフォリオでは、インフレ調整なしの成功率は91%だが、インフレ調整ありの成功率は45%と半減する。一方、引出率を5%にした場合、インフレ調整なしの成功率97%に対し、インフレ調整後の成功率は82%と低下が抑えられる。
- 失敗したポートフォリオのほとんどが1970年代後半の高インフレの時期に及んでいる。失敗の要因は異常な経済的・財政的状況によって説明できる。このような状況では、顧客はポートフォリオを維持するために引出を減らすしかない。
- 表2から、少なくとも株式50%以上のポートフォリオにおいて、15年から20年の期間に、5%から6%の初期引き出しを行うことができる。


表3について:最終ポートフォリオの価格(インフレ調整なし)
- 表3は、退職時の資産額1,000ドルの最終的な価格の中央値を示す。
- 株式投資の比率が高くなるにつれて、最終的なポートフォリオの中央値が劇的に増加していることがわかる。
- 例えば、引出率7%/期間30年/株式50%債券50%の場合、中央値は1,190ドルとなる。株式100%の場合は7,752ドルである。
- 期間中の価値を高くしたい場合は、引出率を低くし、株式配分を高くすべきである。
数値は価格を表す。単位はドル。


表4について:最終ポートフォリオの価格(インフレ調整あり)
- 表4はインフレ調整ありのポートフォリオの価格の中央値。
- ここでも、株式への配分を増やすことのメリットが顕著に表れている。
- 引出率6%/期間30年/株式50%債券50%の場合、中央値は9ドルである。株式100%の場合は4,128ドルになる。
- 表4から、株式の構成比率が高いポートフォリオは、低いときと比べて、インフレ調整後の引出を下支えする。


パラグラフ6:適応力のあるプラン
- 最近の文献では、市場環境の変化に応じて、期間中の引出額やポートフォリオの資産配分を見直すことに注目が集まっている。ポートフォリオの価値が低下した場合には、引出額を低く調整し、増加した場合には引出額を増加させる計画を提案する者もいる。このようなプランはポートフォリオの移動平均値の一定割合を引き出す変額年金プランに実質的に近づくことになる。
- 表1~4を使うと、複雑な数学的メカニズムがわからなくても、引出率や資産配分を修正できる可能性がある。
- 例えば、株価が予想以上に上昇した場合、15年という短い期間であれば、インフレ調整後7%の引出率を検討できる。株式25%以上の配分の場合なら、77%~87%の成功率となる。
- 株価が予想以上に下落した場合は、引出率を減らす。表1~2は2008年~2009年の弱気市場(※→リーマンショック)を反映しており、有用な情報である。
- インフレ調整後の引出率を検討すべきかは退職者の全体的な財務状況による。他の収入や資産がインフレヘッジになっていれば調整は必要ない。
- 債券比率の割合も表1~2で確認できる。期間が短く、株式比率が高いほど、平均的に高い持続可能な引出率が得られる。株式比率が高いポートフォリオの成功率が相対的に高いことから、晩年に債券への配分を増やすことに反対する意見が出ている。
- 一方、その代償としてボラティリティが大きくなる。個々の状況や、株式市場の変動に対する心理面を考慮すると、現金や債券の配分を増やす選択が生まれる。
- しかしながら、表1~2の成功率と表3~4の中央値は、ポートフォリオを晩年に債券に転換することを支持するものではない。
- 確かに、期間中に引出額や引出率を調整することはあり得る。
- 表1~2は、変更不可能な計画として見なされるものではなく、最初のポートフォリオ計画およびその後の計画の調整を行う際の指針となるツールと見なされるべきものである。
パラグラフ7:結論
- 引出率の選択において、少なくとも75%のポートフォリオ成功率を要求すべき。この経験則は、関連する引き出し率が過去に4回のうち3回は成功し、4回のうち1回は失敗したことを意味する。
- もし退職後20年間の配当を期待し、75%の成功率を受け入れることができるならば、少なくとも50%の株式で構成されたポートフォリオから年率7%あるいは8%の引出率を選択することができる。
- インフレ調整を行う場合は、初期の引出率は4%から5%の範囲で、やはり株式50%以上のポートフォリオで低く設定する必要があると考えられる。
パラグラフ7:参考文献
参考文献は割愛します。

論文読破お疲れ様でした!
総括
論文の解説にお付き合いいただきありがとうございます。かなりのボリュームでした。
前回との比較:成功率
前回の論文と成功率を比較します。青が増加、赤が減少です。
成功率についてはかなり上昇していることがわかります。

前回との比較:最終価格の中央値
次に最終価格の中央値の比較です。驚いたことに全てマイナスです。これはちょうど最終時点がリーマンショックの影響で価格が落ち込んでいたことが要因でしょう。

考察
- 今回も前回同様、定率ルールに基づくシミュレーションであった。
- 株価上昇の恩恵を受けるため株式比率は高めが推奨されていた。
- リーマンショックの影響え最終価格が減少したものの、その中でも成功率が上昇したことは、この手法の再現性の高さを示していると考えられる。
- 引出率は固定でなく、初期の指針とすべき。引出期間中に状況に応じて変更することが重要。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、2011年発表のトリニティ・スタディの追跡調査について解説しました。
趣旨については前回と変わらずで、主に更新されたのは数値の部分でしたね。
定率ルールの根拠となる論文も読みたいのですが探すのに結構苦労しています。見つかり次第まとめていきたいと思います。
今回は以上です。ではまた!

最後まで読んでくれてありがとうございます!
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